私は予防医学型パーソナルジムで、これまで多くのお客様の身体と向き合ってきた。
体脂肪率、LBMi、VO₂MAX、血液データ、安静時脈拍、乳酸閾値──そういった客観的指標をもとに、身体の変化を追い続けてきた。
その中で、ある共通した現象に何度も出会う
それが「冷え性」である。
特に女性が多い。
女性のお客様に多く、「手足が冷たい」「夏でも足先が冷える」「お腹が冷えている感覚がある」といった訴えは、非常に頻度が高い。
しかし興味深いのは、多くの場合、血液検査では異常が出ない。
実際に、血糖値、脂質、肝機能、腎機能、貧血指標などを見ても、明らかな異常は見当たらない。それにも関わらず、本人は明確に「不調」を感じている。
つまり、「数値上は健康だが、実際には健康ではない」という状態である。
このようなケースに対して、西洋医学では「問題なし」と判断されることが多い。
せいぜい「生活習慣を整えましょう」「ストレスを減らしましょう」といった一般的な指導にとどまる。しかし現場で指導していると、それだけでは改善しないケースが非常に多いことに気づく。
例えば、同じ冷え性でも、
・筋肉量が少なく、代謝が低い人
・ストレス過多で自律神経が乱れている人
・食事量が少なくエネルギー不足の人
・月経不順やホルモンバランスの乱れがある人
など、背景は全く異なる。
さらに言えば、トレーニングを行って筋肉量が増えても冷えが改善しない人もいる。逆に、強度の高い運動を続けることで、かえって冷えが悪化するケースすらある。
ここで私は、「単純な代謝の問題ではない」と考えるようになった。
そして行き着いたのが、東洋医学の視点である。
東洋医学では、冷えは単なる温度の問題ではなく、「気・血・水」の巡りの問題として捉える。
実際にこの考え方でお客様を見ていくと、非常に説明がつくケースが多かった。
例えば、
・エネルギー不足で動けない人 → 気虚
・栄養不足や貧血傾向 → 血虚
・肩こりや末端の循環不良 → 瘀血
・むくみや内臓の冷え → 水滞
といったように、「冷え」という一つの症状でも、原因が明確に分類されるのである。
さらに重要なのは、この分類によってアプローチが大きく変わる点だ。
気虚の人に対して強いトレーニングを行えば、むしろ状態は悪化する。
一方で、瘀血の人には積極的な運動や血流促進が有効になる。
つまり、「何をやるか」ではなく、「誰に対してやるか」が全てを決める。
この考え方は、私がこれまでデータベースとして蓄積してきた身体の変化とも一致していた。
東洋医学は決して非科学的なものではなく、むしろ「数値に現れない変化」を説明するためのもう一つの手段と感じた。
冷え性に対する東洋医学と西洋医学の役割の違いを書いてみる。
西洋医学は、「病気を診断し、原因を特定し、排除する」ことに特化している。
そのため、明確な異常がある場合には非常に強い。しかし、冷え性のように器質的異常が伴わない場合、その対応は限定的になる。
一方で東洋医学は、「身体のバランスの乱れ」を評価する医学である。
ここで重要になるのが「未病」という概念である。
未病とは、「病気ではないが健康でもない状態」を指す。
冷え性はまさにこの未病の代表例であり、東洋医学が最も得意とする領域である。
東洋医学では、人体を統合的なシステムとして捉える。
自律神経、内分泌系、循環系、代謝系といった機能を個別に分けるのではなく、「気・血・水」という概念で包括的に理解する。
例えば、
・気=エネルギー代謝、神経活動
・血=循環、栄養供給、ホルモン
・水=体液バランス、リンパ、内臓機能
といったように対応させることができる。
冷え性はこれらのいずれか、あるいは複数のバランスが崩れることで発生する。
さらに東洋医学では、「陽虚」という概念も重要である。これは身体を温める力そのものが低下している状態であり、慢性的な冷えや倦怠感、消化機能低下などを伴う。
この状態では、単純に運動や食事を増やすだけでは改善しない。
むしろ、負荷をかけすぎることで回復力をさらに低下させる可能性がある。
ここに、西洋医学との大きな違いがある。
西洋医学は「機能を上げる」アプローチをとるのに対し、東洋医学は「バランスを整える」ことを優先する。
フィットネス・予防医学との統合的アプローチ
冷え性の改善には、
・筋肉量の増加
・血流の改善
・栄養状態の最適化
・自律神経の安定
といった要素が必要である。
これはまさに、予防医学型パーソナルジムが取り組む領域である。
しかし、ここに東洋医学の視点が加わることで、「個別最適化」の精度が大きく向上する。
例えば、
・気虚 → 低強度からの運動+消化に優しい食事
・血虚 → 鉄・タンパク質・微量栄養素の補給
・瘀血 → 有酸素運動+ストレッチ+温熱
・陽虚 → 冷たい刺激を避け、内臓機能を優先
といったように、同じ冷え性でも処方が変わる。
これは、従来の「運動すれば良くなる」「食べれば改善する」といった一律の指導では到達できない領域である。
冷え性のような症状は、単一の原因ではなく、複数の生理機能の乱れが絡み合って発生する。
そのため、西洋医学のように局所的・数値的に原因を追求するアプローチだけでは、対応しきれないケースが多い。
一方で東洋医学は、「全体のバランス」という視点から身体を捉えるため、こうした不定愁訴に対して非常に高い適応性を持つ。
ただし、東洋医学だけで完結するものではない。重要なのは、
・西洋医学でリスクを除外し
・東洋医学で状態を評価し
・フィットネスで身体を変える
という統合的アプローチである。
冷え性は単なる体質ではなく、「身体のバランスが崩れているサイン」である。
そのサインを正しく読み取り、適切に介入することができれば、単なる症状改善にとどまらず、全身の健康レベルそのものを引き上げることができる。
そしてそれこそが、これからの予防医学に求められる本質である。