健康診断の結果票を見ると、「HDLコレステロール」という項目があります。一般的に「善玉コレステロール」と呼ばれ、動脈硬化を防ぐ働きがあるとされます。数値が高いほど心臓病リスクが低いとされ、逆に40mg/dL未満では冠動脈疾患リスクが高まることが分かっています。
「LDLを下げる」ことに比べると、「HDLを増やす」という視点はまだ一般に浸透していません。しかし、近年の予防医学では「HDLの量と質を高めること」が健康長寿の重要なカギであることが明らかになっています。HDLコレステロールの役割を整理し、実際に増やすための方法を解説していきます。
1. HDLコレステロールとは?
(1) HDLの正体
HDLとは「High Density Lipoprotein(高比重リポタンパク)」の略で、血液中を流れるリポタンパクの一種です。比重が高い=タンパク質が多く脂質が少ない構造をしており、直径は約8〜12ナノメートルと小型です。
(2) HDLの役割
HDLの最大の役割は「逆コレステロール輸送(Reverse Cholesterol Transport)」です。末梢組織や血管壁に余ったコレステロールを回収し、肝臓に運んで排泄させます。この働きによって動脈硬化を防ぐため、「善玉」と呼ばれるのです。
(3) HDLの多面的な機能
- 抗酸化作用(酸化LDLを減らす)
- 抗炎症作用(血管壁の炎症を抑える)
- 血管内皮機能の改善(血流をスムーズに保つ)
- 免疫調節作用
単なる「コレステロールの回収役」以上の多彩な保護作用を持っています。
2. なぜHDLを増やすことが重要なのか?
(1) 心疾患リスクとの関連
大規模疫学研究により、HDLが高いほど心疾患リスクが低下することが示されています。代表的なフラミンガム研究では、HDLが1mg/dL増えるごとに心疾患リスクが2〜3%低下することが報告されています。
(2) LDLとの関係
HDLはLDLを直接減らすわけではありませんが、余剰コレステロールを処理することでLDLの「悪玉化(酸化・小型化)」を防ぎます。つまり「LDLの質を良くする」役割を果たします。
(3) HDLの機能低下
最近の研究では「HDLの量」だけでなく「質(機能性)」が重要であることが分かってきました。糖尿病や肥満ではHDLの機能が低下することがあり、単に数値が高ければ安心とは限らないのです。
3. HDLを増やす生活習慣
(1) 運動
最も確実にHDLを増やす方法のひとつが運動です。
- 有酸素運動:ウォーキング、ジョギング、サイクリング、水泳など。週150分以上が推奨。
- 中強度以上:息が少し上がる程度が効果的。
- 筋トレとの併用:筋肉量が増えると脂質代謝が改善し、HDLの働きが高まる。
研究では、持久系運動を継続することでHDLが10〜15%上昇した例も報告されています。
(2) 食事
食事内容もHDLに大きく影響します。
- 不飽和脂肪酸を増やす
オリーブオイル、魚(EPA・DHA)、ナッツ類。これらはHDLを上げ、LDLの酸化を防ぎます。 - 飽和脂肪酸を減らす
バター、ラード、肉の脂身は控えめに。 - 食物繊維を摂る
野菜、豆類、海藻は脂質の吸収を抑制し、HDLの機能改善に寄与。 - 適度なアルコール
少量(赤ワイン1杯程度)はHDLを増やすとされますが、過剰は逆効果。
(3) 禁煙
喫煙はHDLを低下させ、酸化ストレスを増加させます。禁煙後、数週間〜数か月でHDLは回復傾向を示します。
(4) 体重管理
肥満、とくに内臓脂肪型肥満はHDLを低下させます。体重を5〜10%減量するだけでもHDLが改善する例があります。
4. 医学的アプローチ
(1) 薬物療法の限界
HDLを直接増やす薬剤はこれまで研究されてきましたが、必ずしも心疾患リスク低下には結びつかないことが分かっています。ナイアシン製剤やCETP阻害薬はHDLを上げますが、予後改善効果が明確でなかったのです。
そのため、現在の臨床では「薬でHDLを増やす」のではなく、「生活習慣で改善しつつLDLを下げる」ことが基本戦略となっています。
(2) LDL管理との併用
スタチンなどでLDLを下げつつ、生活習慣でHDLを増やすのが心血管予防の最適解です。
5. 最新研究とHDLの「質」
近年は「HDLの量」より「質(機能性)」の重要性が注目されています。
- 抗酸化機能:酸化LDLを減らす能力
- 抗炎症機能:血管壁炎症の抑制
- コレステロール排出能:細胞からコレステロールを引き抜く効率
糖尿病やメタボではHDLの質が低下しやすいため、数値が正常でも安心できません。運動や食事改善はHDLの「質」をも改善すると考えられています。
6. 実生活でできるHDL改善ステップ
- 毎日の歩行量を増やす(1日8000歩を目安)
- 週に2〜3回は汗をかく運動(水泳・ジョギング・自転車など)
- 魚を週2回以上食べる(サバ、イワシ、鮭など)
- 野菜・豆類を毎食取り入れる
- お菓子・加工食品のトランス脂肪酸を避ける
- タバコをやめる
- アルコールは少量まで
- 体重を適正に維持
まとめ
HDLコレステロールは「善玉」と呼ばれる通り、動脈硬化や心疾患から体を守る重要な存在です。しかしその働きは単なる「数値の高さ」ではなく、生活習慣と深く結びついた「機能性」に支えられています。
- HDLを増やすには運動・食事・禁煙・体重管理が基本
- 薬で増やすより生活習慣の改善が効果的
- HDLの「質」を高めることも忘れてはいけない
日々の小さな積み重ねでHDLを味方につければ、血管年齢を若々しく保ち、長期的な健康につなげることができます。