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肝機能低下した人とコレステロールのかかわり方

肝臓は「沈黙の臓器」と呼ばれます。障害があっても自覚症状が出にくく、気づいたときには進行していることも少なくありません。そんな肝臓は、解毒や代謝、エネルギー管理といった多彩な役割を担っています。その中で意外に知られていないのが「コレステロール代謝の中心」という側面です。

「コレステロールが高い」と聞けば動脈硬化や心筋梗塞を連想しますが、実はその裏で肝臓の機能低下が深く関わっていることもあります。肝機能が低下した人とコレステロールのかかわりを、基礎から臨床的な視点まで徹底解説していきます。


1. コレステロールと肝臓の関係

(1) コレステロールの合成

体内のコレステロールの約7〜8割は肝臓で合成されます。材料は炭水化物や脂肪から生じるアセチルCoA。そこからHMG-CoA還元酵素を経てメバロン酸経路をたどり、最終的にコレステロールが作られます。

(2) コレステロールの分配

合成されたコレステロールはリポタンパク(VLDL、LDLなど)に組み込まれて血液へ放出され、全身に供給されます。

(3) コレステロールの排泄

コレステロールは胆汁酸に変換され、小腸へ分泌されることで体外に排泄されます。このプロセスも肝臓の機能に依存しています。

つまり「合成・分配・排泄」のすべてを肝臓が担っているのです。


2. 肝機能低下がコレステロールに与える影響

肝臓の機能が低下すると、コレステロール代謝は多方面で乱れます。

(1) 合成能の低下

慢性肝炎や肝硬変などで肝細胞が障害されると、コレステロールの合成が低下し血中コレステロール値が下がることがあります。特に進行した肝硬変では「低コレステロール血症」がみられます。

(2) 排泄障害

胆汁うっ滞性肝疾患では、コレステロールを胆汁酸として排泄できず、血中コレステロールが上昇することがあります。

(3) リポタンパク代謝異常

肝臓はVLDLやLDL、HDLの形成に関与します。肝機能障害ではこれらのリポタンパクのバランスが崩れ、動脈硬化リスクが変動します。


3. 肝機能低下と血中コレステロール値の変化

肝機能障害の種類によって、コレステロール値の変動は異なります。

  • 慢性肝炎・肝硬変(進行例)
     → 合成能低下 → 低コレステロール血症
  • 胆汁うっ滞(閉塞性黄疸、原発性胆汁性胆管炎など)
     → 排泄障害 → 高コレステロール血症
  • 脂肪肝(非アルコール性脂肪肝NAFLD)
     → VLDL産生亢進 → 高LDLコレステロール血症や高トリグリセリド血症

同じ「肝機能低下」でも、状態によってコレステロール値が高くなる場合と低くなる場合がある点が重要です。


4. コレステロール低下が意味すること

「コレステロールが低いのは良いこと」と思う人もいますが、肝疾患における低コレステロール血症は必ずしも好ましいサインではありません。

  • 重症度の指標
     肝硬変が進行するほど合成能力が落ち、血中コレステロールは低下します。
  • 栄養不良のサイン
     アルブミンやコレステロールが低い場合、予後不良と関連します。
  • 免疫機能の低下
     コレステロールは免疫細胞膜の構成にも必要で、不足は感染リスクを高めます。

5. 高コレステロール血症と肝臓病

一方で、肝疾患が原因でコレステロールが上がる場合もあります。

(1) 胆汁うっ滞による高コレステロール血症

胆汁酸合成や排泄が阻害されると、血中にコレステロールが蓄積します。これにより皮膚に黄色腫(イエロープラグ)が出現することもあります。

(2) 脂肪肝と生活習慣病

脂肪肝は内臓脂肪の増加やインスリン抵抗性と関連し、VLDLが過剰に分泌され、結果的にLDLや中性脂肪が高くなります。これが動脈硬化や心血管疾患につながります。


6. 脂質異常症治療薬と肝機能

高コレステロール血症の治療にはスタチンが用いられますが、スタチンは肝臓で代謝されるため、肝機能低下例では注意が必要です。

  • 軽度の肝障害:通常は使用可能。ただし肝機能検査を定期的にモニター。
  • 中等度〜重度の肝障害:薬剤選択や用量調整に注意。場合によっては禁忌。

また、フィブラート系薬剤も肝代謝に関与するため、同様に肝機能チェックが重要です。


7. 肝機能低下と動脈硬化リスク

肝疾患を持つ人は、コレステロール値だけでなく血管リスク全体に注意が必要です。

  • 肝硬変 → 低コレステロール血症でも動脈硬化リスクはゼロではない
  • 脂肪肝 → 高コレステロール血症や糖尿病と併発しやすく、リスク増大
  • 胆汁うっ滞 → 高コレステロール血症から二次的な心血管イベント

このように「コレステロール値が高い/低い」だけでなく、背景にある肝臓病態を理解することが必要です。


8. 生活習慣の工夫

肝機能低下した人がコレステロールとどう付き合うか、その基本は「肝臓をいたわりながら脂質代謝を改善する」ことです。

  • 食事
     ・過剰な脂質・糖質を控える
     ・魚、野菜、大豆など肝臓にやさしい食品を中心に
     ・アルコールは極力制限
  • 運動
     ・軽めの有酸素運動(ウォーキング、サイクリング)
     ・筋肉量維持で代謝改善
  • 体重管理
     ・肥満の改善は脂肪肝改善に直結
  • 薬剤管理
     ・医師の指示のもと、肝機能に負担をかけない薬を選択

9. まとめ

肝臓はコレステロール代謝の中心を担っており、肝機能低下はコレステロールの「合成」「分配」「排泄」に大きく影響します。そのため、肝臓病ではコレステロールが高くなる場合も低くなる場合もあります。

  • 肝硬変 → 合成低下 → 低コレステロール血症
  • 胆汁うっ滞 → 排泄障害 → 高コレステロール血症
  • 脂肪肝 → VLDL産生増加 → 高LDL血症

「コレステロールが高いから悪い」「低いから安心」という単純な話ではなく、背景にある肝機能低下を正しく理解することが大切です。

肝機能とコレステロールのかかわりを理解し、食事・運動・生活習慣を整えることで、心血管疾患と肝疾患の両方を予防することができます。