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「タンパク質さえ摂れば痩せる」は本当か?

トレーナーに多い栄養指導の落とし穴と正しい知識

トレーニング指導の現場では、「高タンパク=正義」という考え方が広がっています。たしかにタンパク質は筋肉の材料になり、食欲抑制効果や食事誘発性熱産生(DIT)など、減量中にも有利な栄養素です。しかし、「とにかくタンパク質を増やせば痩せる」「プロテインを1日3回飲めば脂肪が落ちる」といった誤った指導が行われるケースも少なくありません。

今回は、こうした誤解に基づく指導がもたらす問題点と、正しい栄養学の知識について解説します。


第1章:なぜ「高タンパク信仰」が広まったのか

フィットネス業界では「筋肉をつけるにはタンパク質が必要」というのは常識です。さらに減量中にも、筋肉を維持するためにタンパク質量を増やすべきだという指導が一般化しています。SNSやYouTubeの影響もあり、プロテイン摂取の推奨量が膨らみ、「1日体重×2.5g以上」「毎食タンパク質中心」といった過剰なアドバイスが飛び交うようになりました。

しかし、トレーナーの中には国家資格や管理栄養士の監修を受けていない者も多く、自己流や“業界の雰囲気”で栄養指導を行っているケースがあります。科学的根拠に基づかない“信仰的”なタンパク質推しは、かえってクライアントの健康を損なう恐れがあるのです。


第2章:「タンパク質を摂れば痩せる」の誤解

トレーナーによっては、「タンパク質は太らないから無制限に摂っても大丈夫」「糖質を減らしてプロテインに置き換えれば痩せる」といった指導を行うことがあります。しかしこれは、大きな誤解を含んでいます。

① カロリーはカロリーである

タンパク質は1gあたり4kcalあります。過剰に摂取すれば当然エネルギー過多となり、余剰分は体脂肪として蓄積されます。たとえそれがプロテインであっても、摂りすぎれば「太る」ことになるのです。

② 栄養バランスの乱れ

極端な高タンパク食は、炭水化物や脂質の摂取を減らしがちになります。これによりエネルギー不足、集中力の低下、便秘、疲労感といった不調が起こるリスクがあります。特に女性の場合は月経不順やホルモンバランスの乱れにもつながります。

③ 腎臓や肝臓への負担

もともと腎臓や肝臓に持病がある人が高タンパク食を長期間続けると、臓器に過剰な負担をかけることになります。タンパク質の代謝には尿素やアンモニアの処理が必要であり、健康な人でも過剰な摂取は臓器疲労の原因になり得ます。


第3章:必要なタンパク質量とは?

では、減量中や筋力アップを目指す場合に、どの程度のタンパク質摂取が適切なのでしょうか? 目安となるのが以下のガイドラインです。

  • 一般的な成人:体重1kgあたり約0.8〜1.0g
  • トレーニングをしている人:体重1kgあたり1.2〜2.0g
  • 減量中の筋肉維持を目指す人:体重1kgあたり最大2.0g前後まで

たとえば体重60kgの女性で、筋トレを週2〜3回している場合、1日のタンパク質摂取量の目安は約72g〜120g程度です。これを食品からバランスよく摂り、足りない場合はサプリメントで補うのが基本です。

「プロテインドリンクを毎食+間食に加える」といった過剰摂取は、かえって摂取エネルギーを増やす原因になります。特に、糖質制限と組み合わせるとエネルギー不足による代謝低下やリバウンドの危険性もあります。


第4章:正しい栄養指導とは何か?

トレーナーがクライアントに対して適切な栄養指導を行うためには、「食品のバランス」「個人差」「医学的リスク」を踏まえた総合的な判断が必要です。以下のポイントが特に重要です。

① 食事全体のバランスを見る

  • 三大栄養素(たんぱく質・脂質・糖質)のバランス
  • ビタミン・ミネラル・食物繊維の摂取状況
  • 加工食品やサプリメントの過剰使用の有無

② クライアントの背景を理解する

  • 年齢、性別、体重、筋肉量、体脂肪率
  • 持病の有無(腎疾患・肝疾患・糖尿病など)
  • ライフスタイル(食習慣・仕事・ストレスレベル)

③ 必要に応じて専門家と連携する

  • トレーナーは栄養士や医師ではないため、判断がつかない場合は管理栄養士に相談したり、医師の助言を仰ぐことも重要です。
  • 栄養指導を“自己流”で行わない姿勢が信頼につながります。

第5章:クライアントを守るために、学び続ける姿勢を

トレーナーは身体のプロフェッショナルであり、クライアントの健康と人生に大きな影響を与える存在です。しかし、トレーナー自身が「タンパク質はとにかく多く摂れば痩せる」といった誤った情報を信じてしまえば、結果としてクライアントの代謝を落とし、健康を損ね、リバウンドさせてしまうリスクがあります。

現代は情報があふれる時代です。SNSや広告の影響をそのまま鵜呑みにせず、科学的な根拠を持って指導にあたる姿勢が求められます。そして、必要な場面では「わからない」と認め、専門家と連携する勇気も、プロフェッショナルとして重要です。


結論:タンパク質は“万能薬”ではない

タンパク質は健康的な体作りにおいて非常に大切な栄養素です。しかし、摂れば摂るほど痩せるわけでも、健康になるわけでもありません。大切なのは「バランス」と「個別性」です。

トレーナーがクライアントの健康と成果を守るためには、単なる流行ではなく、正しい栄養学に基づいた根拠ある指導が必要です。美しい体と健康を両立させるためには、科学に基づく知識こそが最も強力な“武器”になるのです。