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炭水化物の糖質が脂肪を作るまでの流れ

「炭水化物を食べすぎると太る」とよく言われる。しかし、具体的に体の中でどのように糖質が分解され、エネルギーとして使われ、余った分が脂肪に変換されるのかを正確に理解している人は少ない。
実は、炭水化物は消化・吸収から始まり、血糖値の変動、インスリン分泌、肝臓での代謝、そして最終的に脂肪酸合成という複雑な流れを経て体脂肪へと姿を変える。その一連のプロセスを丁寧に解説し、ダイエットや健康管理に役立つ視点を提供する。


第1章 炭水化物の消化と吸収

炭水化物は口に入った瞬間から分解が始まる。

  1. 口腔
     唾液アミラーゼによってデンプンが麦芽糖(マルトース)に分解され始める。

  2.  胃酸により酵素が働きにくくなるため、ここではほとんど分解は進まない。
  3. 小腸
     膵臓から分泌される膵アミラーゼがデンプンをさらに分解。小腸上皮の刷子縁酵素(マルターゼ、スクラーゼ、ラクターゼなど)が二糖類を単糖類にまで分解する。
  4. 吸収
     最終的に「ブドウ糖(グルコース)」「果糖(フルクトース)」「ガラクトース」などの単糖類として小腸から血液中に吸収される。

この段階で食べた炭水化物は「血糖」として全身を巡る。


第2章 血糖値とインスリンの役割

血糖値が上がると、膵臓のβ細胞からホルモン インスリン が分泌される。

  • インスリンは血糖を細胞に取り込む「カギ」の役割を果たす。
  • 筋肉細胞では、ブドウ糖をエネルギー源として利用したり、グリコーゲンとして蓄える。
  • 肝臓では、余ったブドウ糖をグリコーゲンに変換して貯蔵する。

しかし、これらの貯蔵庫には限界がある。筋肉と肝臓のグリコーゲン量は合計で約400〜500g程度が限度。ここを超えると「余剰糖質」は別の運命をたどることになる。


第3章 余った糖質の運命 ― 脂肪への変換

グリコーゲンとして蓄えきれない糖質は、肝臓で 脂肪酸合成(de novo lipogenesis, DNL) というプロセスを経て脂肪へ変換される。

  1. 解糖系(Glycolysis)
     ブドウ糖は細胞内で解糖され、ピルビン酸になる。ここでエネルギー(ATP)が得られる。
  2. アセチルCoAの生成
     ピルビン酸はミトコンドリアに入り、アセチルCoAに変換される。これはエネルギー代謝の中心的な中間体。
  3. TCA回路(クエン酸回路)とATP合成
     通常はアセチルCoAはTCA回路に入り、電子伝達系を通じてATPが産生される。しかし、エネルギーが十分あると、TCA回路は飽和する。
  4. 脂肪酸合成への転換
     余ったアセチルCoAはクエン酸として細胞質に輸送され、再びアセチルCoAに戻される。このアセチルCoAを材料に「脂肪酸合成酵素(FAS)」が働き、脂肪酸が作られる。
  5. 中性脂肪(トリグリセリド)の形成
     脂肪酸はグリセロールと結合して中性脂肪となり、脂肪組織に蓄積される。これが「糖質由来の体脂肪」である。

第4章 果糖の特殊な代謝と脂肪合成

ブドウ糖だけでなく、砂糖や果糖ブドウ糖液糖に含まれる 果糖(フルクトース) はさらに脂肪になりやすい。

  • 果糖は小腸で吸収された後、ほぼ全量が肝臓で代謝される。
  • 果糖の代謝はインスリンを経由せず、直接アセチルCoAへと変換されやすい。
  • そのため過剰な果糖摂取は肝脂肪蓄積(脂肪肝)や中性脂肪上昇を招きやすい。

清涼飲料水や菓子類が「太りやすい」と言われる背景には、この果糖の代謝特性が関与している。


第5章 糖質から脂肪合成が促進される条件

  1. 血糖値が急上昇するとき
     高GI食品(白米、食パン、うどん、菓子パンなど)は血糖値を急激に上げ、インスリン大量分泌 → 脂肪合成が加速。
  2. 運動不足のとき
     筋肉が糖を使わないため、余剰分がすぐに脂肪合成へ回される。
  3. 肝臓・筋肉のグリコーゲンが満タンのとき
     運動直後であれば糖はグリコーゲンとして優先的に補充されるが、座りっぱなしの生活ではすぐに余剰扱いになる。
  4. 果糖の過剰摂取
     特に清涼飲料水、加工食品に含まれる果糖は肝臓で直接脂肪合成に回りやすい。

第6章 糖質→脂肪変換を防ぐ方法

1. 食物の選び方

  • 精製度の低い炭水化物(玄米、雑穀、オートミール)を主食にする
  • 野菜やタンパク質と組み合わせて血糖値上昇を緩やかに

2. タイミングの工夫

  • 運動前後に糖質を摂ればグリコーゲン補充に回り、脂肪になりにくい
  • 夜遅くの糖質摂取は脂肪合成リスクが高い

3. 摂取量の調整

  • 必要以上に糖質を摂らない(総エネルギーの40〜50%が目安)
  • ジュースやお菓子など「液体糖・精製糖」はできるだけ避ける

4. 運動習慣

  • 有酸素運動で糖を消費し、筋トレでグリコーゲンの貯蔵庫(筋肉量)を増やす
  • 筋肉が多いほど糖質は脂肪ではなくエネルギーとして使われやすい

第7章 まとめ

炭水化物の糖質が脂肪に変わる流れは以下のように整理できる。

  1. 炭水化物を摂取 → 消化吸収 → 血糖値上昇
  2. インスリン分泌 → 筋肉や肝臓にグリコーゲンとして貯蔵
  3. グリコーゲンが満タン → 余剰糖質は肝臓でアセチルCoAに
  4. 脂肪酸合成(de novo lipogenesis)→ 中性脂肪として蓄積
  5. 特に果糖はインスリンを介さず、直接脂肪合成に回りやすい

つまり「糖質=即脂肪」ではなく、「余剰糖質が脂肪になる」という流れが本質である。
ダイエットの成功には、糖質の質・量・タイミング、そして運動とのバランスが決定的に重要だ。