「ダイエット=脂質を減らすこと」と考える人は多いでしょう。脂質は1gあたり9kcalと高エネルギーで、摂りすぎると肥満の原因になるとされてきました。そのため「脂質カットダイエット」や「低脂肪食」が一時的にブームとなった時代もありました。
しかし、脂質を極端に制限した食事が本当に健康に良いのかといえば答えは単純ではありません。脂質は単なる「太るもと」ではなく、ホルモンや細胞膜、神経機能に欠かせない栄養素です。脂質カットダイエットを行うと、コレステロールや体の健康にどのような影響が出るのでしょうか。その仕組みを徹底的に解説します。
1. 脂質の基礎知識
(1) 脂質とは?
脂質は三大栄養素のひとつで、炭水化物・タンパク質と並んで人間の生命活動に不可欠です。脂質には大きく以下の種類があります。
- 中性脂肪(トリグリセリド)
- コレステロール
- リン脂質
- 脂肪酸(飽和脂肪酸、不飽和脂肪酸)
(2) 脂質の役割
- 高効率のエネルギー源(1gで9kcal)
- 細胞膜やホルモンの材料
- 神経系の働きを支える
- 脂溶性ビタミン(A, D, E, K)の吸収に必要
- 体温維持・臓器保護
つまり脂質は「悪者」ではなく「適切に必要な栄養素」です。
2. コレステロールと脂質摂取
(1) コレステロールの体内での位置づけ
コレステロールは体の構造やホルモン合成に不可欠で、約70〜80%は肝臓で合成されます。食事からの摂取量は全体の一部にすぎません。
(2) 脂質摂取と血中コレステロール
かつては「食事中のコレステロールが血中コレステロールを直接上げる」と考えられていましたが、現在では「脂質の種類(飽和脂肪酸やトランス脂肪酸)が血中LDLに強く影響する」とされています。
- 飽和脂肪酸(肉の脂、バター):LDLコレステロールを増やす
- 不飽和脂肪酸(魚、ナッツ、オリーブオイル):HDLを増やし、LDLを減らす
3. 脂質カットダイエットのメリット
脂質を減らすことで、短期的に以下のような効果が期待できます。
(1) 摂取カロリーの削減
脂質は高カロリーのため、制限すれば総摂取エネルギーを減らしやすくなり、体重減少につながります。
(2) 一部の病態への有効性
高LDL血症や胆のう疾患では、脂質制限が症状の改善に役立つことがあります。
(3) 消化器負担の軽減
膵臓疾患や胆道疾患では脂質消化が難しいため、低脂肪食が推奨されるケースもあります。
4. 脂質カットダイエットのリスク
一方で、脂質を極端に制限することは数多くの問題を引き起こします。
(1) コレステロール不足による影響
- 細胞膜が脆弱になる
- 性ホルモンや副腎皮質ホルモンの合成低下
- 胆汁酸合成の低下による脂肪吸収障害
特に女性では、無月経やホルモンバランスの乱れを引き起こすことがあります。
(2) 脂溶性ビタミンの吸収不良
ビタミンA(視覚)、D(骨代謝)、E(抗酸化作用)、K(血液凝固)が不足しやすくなります。
(3) HDLコレステロールの低下
脂質制限はHDLを減少させ、逆に動脈硬化リスクを高める可能性があります。
(4) 代謝異常
脂質を減らしすぎると、その代わりに炭水化物を過剰摂取しやすくなります。これがインスリン抵抗性や中性脂肪上昇につながり、メタボリックシンドロームを悪化させることがあります。
5. 脂質カットとコレステロール値の実際
脂質カットダイエットを行った場合の血中脂質の変化は一様ではありません。
- LDLコレステロール:短期的に下がるが、長期的には変化が少ないことも多い。
- HDLコレステロール:低下しやすく、心血管リスク上昇の要因となる。
- 中性脂肪:炭水化物摂取が増えると逆に上昇することがある。
最新の研究では「極端な低脂肪食よりも、脂質の種類を工夫した適正脂肪食(30%程度)」の方が健康に良いとされています。
6. 健康に良い脂質の摂り方
脂質を「カット」するのではなく「選ぶ」ことが重要です。
(1) 減らすべき脂質
- 飽和脂肪酸(肉の脂、乳製品の脂)
- トランス脂肪酸(マーガリン、ショートニング、加工食品)
(2) 増やすべき脂質
- 不飽和脂肪酸(オリーブオイル、菜種油)
- ω-3系脂肪酸(青魚、亜麻仁油、チアシード)
- ナッツ類に含まれる脂質
(3) バランスの目安
日本人の食事摂取基準(2025年版)では、脂質エネルギー比率は20〜30%が推奨されています。
7. 脂質カットダイエットが向く人・向かない人
(1) 向いている場合
- 胆のう疾患、膵疾患で脂肪消化が困難な人
- 短期間で体重を減らす必要がある場合(医師の指導下で)
(2) 向かない場合
- 健康維持・美容目的で極端に脂質を制限する人
- 女性(特に若年層)でホルモンバランスを崩しやすい
- スポーツ選手や筋肉量を維持したい人
8. 脂質カットの代替戦略
脂質を単純に減らすのではなく、以下の工夫で健康的にダイエットを進められます。
- 「脂質の質」を改善(バター→オリーブオイル、肉→魚)
- 食物繊維を増やして脂質の吸収を抑制
- 有酸素運動でHDLを増加
- 筋トレで基礎代謝を上げて脂質を効率よく燃焼
まとめ
脂質カットダイエットは、短期的には体重や血中脂質の改善に役立つことがありますが、長期的には以下のリスクを抱えます。
- コレステロール不足によるホルモン・細胞機能低下
- 脂溶性ビタミンの欠乏
- HDL低下による心血管リスク上昇
- 炭水化物過剰摂取による代謝異常
健康的なアプローチは「脂質をゼロにする」のではなく、「質を選んで適量摂取する」ことです。魚、ナッツ、植物油を活用し、飽和脂肪酸やトランス脂肪酸を控えることで、コレステロールバランスを整えながら健康と美容を両立できます。
「脂質は敵」ではなく「味方にすべき存在」。正しい知識を持って脂質とつき合うことこそが、現代人にとっての本当のダイエット戦略なのです。