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肝臓でコレステロールが作られるとは?―体内合成の仕組みと健康への意味

「コレステロールは食べすぎると上がる」と思っている人は多いでしょう。しかし実際には、私たちの体の中で合成されるコレステロールの方が圧倒的に多いのです。その中心となる臓器が「肝臓」です。

肝臓は「代謝の司令塔」とも呼ばれる臓器で、栄養素を変換・合成・分配し、体全体のバランスを保っています。コレステロールも肝臓で合成され、体の隅々まで送り出されています。本記事では「肝臓でコレステロールが作られる」とはどういうことなのかを、できるだけわかりやすく深掘りしていきます。


1. コレステロールの基本

まずコレステロールとは何かを整理しましょう。コレステロールは脂質の一種で、エネルギー源として使われる「中性脂肪」とは異なり、体の構造やホルモン合成に欠かせない役割を担います。

  • 細胞膜の安定化
  • ステロイドホルモンの材料
  • 胆汁酸の原料
  • 脳神経の働きを支える

つまり、コレステロールがなければ生命活動は成り立たないのです。


2. コレステロールの供給源

体内のコレステロールはどこから来るのでしょうか?大きく二つのルートがあります。

  1. 食事由来
     卵や肉、乳製品など動物性食品に含まれるコレステロールをそのまま吸収する。
  2. 体内合成
     主に肝臓で合成される。体内のコレステロールの約70〜80%はこの経路による。

この事実が「食事制限だけではコレステロールを完全にコントロールできない」理由です。食事で摂取量が少なくても、肝臓が必要に応じて作り出してしまうのです。


3. 肝臓でのコレステロール合成の仕組み

コレステロールは炭水化物や脂肪の代謝過程から生じる「アセチルCoA」という分子を出発点に合成されます。このプロセスを「メバロン酸経路」と呼びます。流れを簡単に追ってみましょう。

(1) アセチルCoAからスタート

糖質や脂質を分解すると、最終的に「アセチルCoA」ができます。これはエネルギー代謝の中心分子であり、コレステロール合成の材料にもなります。

(2) HMG-CoA合成

2分子のアセチルCoAが結合し、「HMG-CoA(ヒドロキシメチルグルタリルCoA)」という中間体になります。

(3) HMG-CoA還元酵素

ここで登場するのが「HMG-CoA還元酵素」という鍵酵素です。この酵素の働きによって「メバロン酸」が作られます。
👉 実は、コレステロール合成を抑える薬「スタチン」は、この酵素を阻害することで効果を発揮します。

(4) メバロン酸からスクアレンへ

メバロン酸は何段階もの反応を経て「イソプレノイド単位」と呼ばれる構造を作り、それが重合して「スクアレン」という分子になります。

(5) スクアレンからコレステロールへ

スクアレンはさらに複雑な反応を経て「ラノステロール」になり、最終的に「コレステロール」が合成されます。

この一連のプロセスは非常に多段階で、酵素の調整を受けながら精密に制御されています。


4. なぜ肝臓で合成されるのか?

肝臓は体内の「代謝工場」として、栄養の変換と供給を担っています。食べ物から得た栄養を血液中に流す際、必要なものを合成して全身に配る役割を果たします。

  • 小腸で吸収した栄養を一度集める:門脈を通って肝臓に集まる
  • 必要な形に作り変える:タンパク質合成、糖の貯蔵、脂質合成
  • 全身に送り出す:リポタンパクに詰めて血液へ

コレステロールは「リポタンパク(VLDL、LDLなど)」に組み込まれ、肝臓から全身の細胞へ運ばれます。これにより、全身の細胞が必要なときに使えるようになるのです。


5. コレステロール合成の調整機構

体は無駄にコレステロールを作りすぎないよう、巧妙な調整システムを備えています。

(1) フィードバック抑制

血中のコレステロールが多くなると、肝臓のHMG-CoA還元酵素の働きが抑えられ、合成がストップします。逆に足りないと活性化されます。

(2) LDL受容体の調整

肝臓の細胞表面には「LDL受容体」があり、血液中のLDLを取り込みます。この数を増減させることで、血中コレステロールの調整を行っています。

(3) ホルモンによる影響

  • インスリン:合成を促進
  • グルカゴン:合成を抑制

このように、栄養状態やホルモンバランスによって合成量は常に変動しています。


6. 肝臓合成と病気の関係

(1) 脂質異常症

肝臓での合成が過剰になると、血中のLDLが増えて「高LDLコレステロール血症」となり、動脈硬化リスクが高まります。

(2) 家族性高コレステロール血症

遺伝的にLDL受容体がうまく働かないと、合成と利用のバランスが崩れ、若年でも心筋梗塞のリスクが上がります。

(3) 脂肪肝

油や糖質の摂りすぎは肝臓に中性脂肪やコレステロールをため込み、脂肪肝や肝炎につながることがあります。


7. コレステロールをコントロールする生活習慣

肝臓のコレステロール合成は、日常生活の影響を強く受けます。

  • 食事:飽和脂肪酸・トランス脂肪酸を減らし、不飽和脂肪酸や食物繊維を増やす
  • 運動:有酸素運動はHDLを増やし、肝臓での代謝バランスを改善
  • 禁煙:喫煙はHDLを低下させ、コレステロール調整を乱す
  • 節酒:少量ならHDLを増やすが、大量は肝臓に負担をかける

8. 薬物療法と肝臓の合成

コレステロール合成を抑える薬として代表的なのが「スタチン」です。これはHMG-CoA還元酵素を阻害し、肝臓でのコレステロール合成を減らします。結果的に肝臓は血中LDLを多く取り込むようになり、血中のコレステロール値が下がります。


まとめ

「肝臓でコレステロールが作られる」とは、単に「食事で入ってくる」以上に重要な仕組みです。体は必要に応じて自らコレステロールを合成し、全身に供給しています。

つまり、コレステロール管理の本質は「肝臓の働きを整えること」です。食事や生活習慣、場合によっては薬によって肝臓の合成バランスを整えることが、心臓病や動脈硬化を防ぐ第一歩となるのです。