結論
- サーキット60分を「中等度中心+心拍揺らし(高低インターバル)」で週5–7回回せると、HDL(善玉)は上がりやすく、トリグリセリド(中性脂肪)は下がりやすい。
- LDL(悪玉)は“数”より“質”が改善(small dense LDLが減り酸化LDLが減る)ことが多い。総量が顕著に下がらない人でも、動脈硬化リスク低下に寄与しやすい。
- 強度のやりすぎ・睡眠不足・栄養不足があると、HDLが伸びにくく、むしろLDL酸化や炎症マーカーが悪化することがある。
- 血液データの変化は3–4週で兆し、8–12週で“筋”が見えるのが目安。
1) なぜサーキットがコレステロールに効くのか(メカニズム)
1-1. 逆コレステロール輸送(HDL↑)
サーキットのように全身を動かし続ける運動は、骨格筋でのLPL(リポタンパクリパーゼ)活性とABCA1/ABCG1経路を刺激。末梢で余ったコレステロールをHDLが回収→肝臓へ搬送する“逆輸送”が促進され、HDL-Cが上がりやすい。
1-2. VLDL生成の抑制とTG低下
持続的な消費で肝臓に戻る遊離脂肪酸のパターンが変わり、VLDL放出が抑制。その結果、トリグリセリド(TG)↓、VLDL由来LDLの生成圧も低下しやすい。
1-3. LDLの“質”改善
運動は抗酸化能↑・炎症↓に働くため、酸化LDLが減り、small dense LDL比率が低下。LDL-Cの絶対値が大きく落ちなくてもリスクは下がる理由がここ。
1-4. 肝機能との関係
有酸素優位のサーキットは肝の脂質代謝(β酸化)に好影響。脂肪肝の改善→ VLDL過剰放出是正 → 血中脂質プロファイル改善というルートが期待できる。
2) 「毎日60分」の設計原則(効果を出す)
2-1. 強度の目安(主観RPEと心拍)
- ベース:RPE 5–6/10(会話は途切れがち、フォームは保てる)
- スパイク:RPE 7–8/10を30–90秒入れて心拍を揺らす
- 心拍の指標:最大心拍の60–80%を主領域、85–90%をスパイスに短時間
2-2. 60分サンプル(全身×代謝×安全)
- ウォームアップ(10分):関節モビリティ+軽い有酸素
- メイン①(15分):下半身回路
- スクワット or レッグプレス(中負荷15–20回)
- ヒップヒンジ(デッドリフト系軽〜中負荷15回)
- カーフレイズ or ステップアップ(左右各12–15回)
- サイクル or ローイング60–90秒ハード
→ サーキット3周、休息は移動のみ(心拍を落とし切らない)
- メイン②(15分):上半身回路
- 水平プッシュ(プッシュアップ or マシン15回)
- 水平プル(ロウ系15回)
- 垂直プル(ラットプル軽〜中負荷12–15回)
- バトルロープ or エアロ60秒ハード
→ 3周
- メイン③(10分):心肺スパイス
- 30秒ハード/60–90秒イージー × 6–8本(バイク・ロー・エリプ)
- クールダウン(10分):低強度+呼吸・ストレッチ
ポイント:フォーム最優先。負荷は「話せないほど苦しい」を長く続けない。“キツい短時間”を点描のように散らすのが日次で回すコツ。
2-3. 週あたりのボリューム
- 頻度:週5–7回でもOK。ただし強弱の波をつける(後述)。
- スパイク総量:週合計20–30分の高強度が目安(1回3–6分×5回などで達成可)。
- 歩数やNEAT:サーキット外で+5,000–8,000歩/日を確保するとTG低下が伸びやすい。
3) どのぐらいで数値は動く?
- 1–2週:TG(中性脂肪)が下がり始める人が多い。むくみ感・睡眠質の改善も。
- 3–4週:HDL↑の兆し。空腹時血糖・HOMA-Rの改善が重なるケースも。
- 8–12週:HDL+10〜15%(反応良好例)、sdLDL比↓、酸化LDL↓。
- 個人差:遺伝(FHなど)、甲状腺機能、薬、肝・腎機能、睡眠・ストレスで変動。
※HDLは睡眠時間(7–8h)と飲酒パターンの影響も受けます。寝不足や連日多量飲酒はHDLの伸びを削るので注意。
4) 栄養:数値を伸ばす“地味に効く”組み合わせ
- 脂質の質:
- 増やす:オレイン酸(オリーブ油)、ω-3(青魚、亜麻仁)
- 控える:飽和脂肪(脂身・バター)、トランス脂肪
- たんぱく質:体重×1.2–1.6g/日(肝・腎疾患は主治医指示に従う)
- 食物繊維:20–25g/日以上(水溶性:大麦・海藻・豆 → LDL低下&腸内環境↑)
- ポリフェノール・ビタミンE/C:酸化LDL抑制に寄与(緑茶、ベリー、ナッツ、色野菜)
- アルコール:少量でHDL↑が報告あるが、連日の多量は逆効果。休肝日を。
- 体重管理:内臓脂肪↓でHDL↑/TG↓の“土台”が整う。急激な低エネはNG。
5) 血液データの読み方(“量”と“質”)
- まずは基本4項目:TC(総コレステロール)/ LDL-C / HDL-C / TG
- 可能なら詳細:non-HDL-C(=TC−HDL)、ApoB(粒子数の代理)、sdLDL、酸化LDL
- 評価のコツ:
- TG/HDL比(目安2.0未満)…インスリン抵抗性・sdLDLの間接マーカー
- non-HDL-C(目標はリスクに応じて設定)…アテローム性粒子の総量
- ApoB…“何台のトラックが走っているか”を数える指標
LDL-Cが横ばいでも、TG↓・HDL↑・TG/HDL↓・ApoB↓ならリスク低下方向と判断しやすい。
6) 「毎日」回すための疲労・安全マネジメント
- 強弱の波:
- 強日(スパイク多め)2–3日/週
- 中日(ベース回し)2–3日/週
- 軽日(フォームドリル+低強度)1–2日/週
- 睡眠:7–8時間を最優先タスクに。HDLは寝不足で伸びづらい。
- HRV/主観疲労:下降が続く日はスパイク削減。
- 炎症サイン:安静時心拍の上昇、関節痛、パフォ低下が続く → 一段落とす。
- 循環器既往・服薬:スタチン等は主治医の運動許可の範囲で。筋痛・CK上昇には注意。
7) よくある“失敗パターン”と修正
- 全部ハードにしてしまう → HDL伸びず、TGも下がり切らない
- 修正:“ベース6割:スパイク4割”の配合へ。
- エネルギー・脂質を削りすぎ → ホルモン・回復低下、HDL停滞
- 修正:脂質25–30%エネルギーを目安に良質脂肪へ置換。
- 炭水化物のタイミング不良 → セッション品質低下
- 修正:運動前後に少量(バナナ・おにぎりなど)で質を担保。
- 座位時間が長い → NEAT不足でTGが残る
- 修正:毎時2–3分立つ、昼に10–15分散歩を足す。
8) 立場別アレンジ(プロトコル例)
8-1. 体力初級
- 30–40秒動く/20–30秒移動休息 × 8種目 × 2–3周
- 心拍は**最大の60–70%**中心。週6–7日でもOK(軽日を混ぜる)
8-2. 体力中級
- 45–60秒動く/20秒移動休息 × 8種目 × 3周
- 90秒×6–8本のインターバル(最後に追加)
8-3. 体力上級・時短
- EMOM/AMRAPやロウ×バイクの交互スパイクで効率化
- 高強度合計20–25分/週は死守。残りは有酸素ベースで整える
9) 特記事項(妊娠中・肝機能に配慮が必要な方へ)
- 妊娠中:医師の許可を前提に、転倒・腹圧上昇・過度のValsalva回避。RPE 6/10以内、高温環境回避、こまめな水分補給。
- 肝機能に課題がある方:高強度の連発より“中等度の継続”が安全で効果的。アルコール制限と睡眠最優先でTG↓・HDL↑が出やすい。薬(スタチン等)使用中は筋症状・CKの観察を。
10) まとめ
- 週5–7回の60分サーキット(ベース>スパイク)
- 高強度は合計週20–30分、残りは中等度で繋ぐ
- 歩数+5,000–8,000/日でNEATを底上げ
- 脂質の質を最適化(オリーブ油・青魚・ナッツ↑/飽和・トランス↓)
- 睡眠7–8hと休肝日
- 8–12週でHDL↑・TG↓・TG/HDL↓を確認(できればApoBやnon-HDL-Cも)
- 無理な高強度の連投をしない(“心拍の揺らし”で十分効く)
ひとこと:
サーキットは「毎日やっても壊れにくい“有酸素ベース+全身分散”」という構造が、脂質代謝の改善と相性抜群です。量のやり込みより、配合(強度バランス・睡眠・栄養)で勝ちに行く。これがHDLを伸ばし、TGを落とし、LDLの“質”を良くする近道です。必要があれば、あなたの現状データ(HDL/LDL/TG、体力、可処分時間)に合わせた週間メニューもその場で組みますよ。